2015年8月6日木曜日

打ち方を直すことが上達への道だという誤解

■テニスラケットの良し悪しは自分ではわからない

からスタートして、

■テニスは無意識的な運動で構成されている
■上達するには運動を無意識化することが必要

と続けてきましたが、ここまでで、テニスがとても忙しくて難しいスポーツであることはご理解いただけたと思います。

そして、その難しいことをスピーディーにこなすために、多くのプレイヤーはたくさん練習を積んできたわけです。

ただ、ここまでは「地道に練習を重ねないとうまくならない」というごく当たり前のことを言っているだけなので、特に疑問な点はないと思います。

にもかかわらず、その当たり前のことを忘れて、これまで積み重ねてきた練習をご破算にするようなことに取り組みながらプレーしている方がとても多いようです。

その取組とは「考えながら自分の打ち方を直そうとする」というものです。


●意識的な運動修正が上達への道だと信じられている

実際問題として、多くのプレイヤーはボールを打つときの動きを意識的に修正しようと努力しています

そして、それが上達への取組だと信じているようです。

「もっとこうすれば良いショットが打てるのではないか」と考えながら、ボールを打つときの動きをいろいろ工夫しつつプレーしている方は少なくありません。

そして、プレー中に気をつけるべきこととしては、以下のようなテーマが結構多いようです。

「ラケットを早く引こう」
「テイクバックでラケットヘッドを下げよう」
「遅れないように打点を前にしよう」
「ボールが飛んできたら身体を横に向けよう」
「インパクトではグリップをしっかり握ろう」
「ボールを押すように打とう」
「フォロースルーを大きくしよう」

これら以外にも気をつけるべきテーマは無数にあり、うまくなるために「ああしよう」「こうしよう」といつも考えながらプレーしている方はとても多いようです。

そして、そうするのがテニスへのマジメな取組であり、何も考えずにただ漫然と打っているだけではうまくならない、と考えられているケースが少なくありません。

そのため、「うまくなるには打ち方を改善しなければならない」と思っているマジメなプレイヤーほど、新たに取り組むべき改善テーマを、専門誌やネット上で常に探しまわる傾向があるようです。

●初心者に戻る努力

でも、ここでちょっと考えてみてください。

先述したように、「テニスでは、毎回異なるボールの状態に適したスイングを、その場その場で瞬間的に選択しながら、タイミング誤差を0.01秒以内に抑えつつ、3秒くらいの間隔で、飛んで来るボールを打ち返すという作業を、コート上を走り回りながら連続的にやらなければならない」のですが、そんな人間ワザではないようなことをやるために練習を積み重ねて、「考えなくても身体が勝手に動く状態」を手に入れたわけです。

ですから、一旦その状態になってから、考えながら自分の動きを直そうとするのはちょっと無理があるのではないでしょうか。

身体の動きに気をつけながらボールを打つというのは、意識的に身体を動かすことなので、「勝手に体が動く状態」から抜け出て「考えながら動く状態」に戻るわけですが、それはまさしく「初心者に戻ろうとすること」です。

というのも、意識的に動こうとすると、スピードが失われ、繊細なタイミングコントロールが難しくなり、ボールに合わせた柔軟な対応力が失われるからです。

なぜなら、考えながら身体を動かそうとすると、その実行スピードは思考の速度より速くはならないので、身体の動きが遅くなってタイミングが合わせにくくなり、しかも、やろうとした動きとボールの状態が合わないケースが増えるからです。

テニスでは常にボールの状態に合ったスイングをしなければならないのに、ボールが飛んで来る前に「こうやって打とう」というテーマを決めてしまうと、現実とのミスマッチが起こる可能性が高くなります。

初心者のうちは、熟練による運動の無意識化ができていないので、いちいち考えてやらなければならず、そのために動作が遅く不正確で、ミスも多いのですが、上級者でも、考えて打とうとするとその状態に近くなるわけです。

ですから、何らかの改善課題に取り組みながらプレーするのは初心者に戻ろうとすることであり、失敗しようとする取組に近いと言えます。

●簡単に直せるという思い込み

それではなぜ、そんな無謀な取組をしてしまうのでしょうか。

これにも、「テニスは無意識的な運動で構成されている」ことが影響しているようです。

上達した方はすでに運動が無意識化しているので、とてもややこしいことを自分がやっているという自覚がないことが多いのです。

ライジングでとらえたボールを相手コートのコーナーに勢い良く打ち込んだときには、身体の位置や体重移動、面の角度やスイング方向、ヘッドスピードなどのいろいろなことが総合的にうまくコントロールされた結果としてのナイスショットなのですが、打つ際には身体が勝手に動くので、そうした動きの詳細を自分で決めたりはしていません。

そのため、その運動の具体的な細かい内容は記憶に残らないわけです。

なので、自分がやっていることは特に難しくはないので、考えながら簡単に修正できると思ってしまうようです。

これまで何年もやってきた練習のことはすっかり忘れて、現状では何気なく簡単にできることなので、直すのも簡単だと思ってしまうのかもしれません。

実際には、気をつけてやれば直せるくらいの悠長なスピードの中ではプレーしていないのにもかかわらず、自分の動きを気をつけて直そうとするわけです。

考えながら動いていたら間に合わないスピードの中でプレーしているのに、その中で身体の動きを考えていたら、スピードが失われて、タイミングが合わなくなるのは目に見えています

そのため、何らかの努力課題を頭においてプレーしたときのほうが、かえってミスが増えるという経験を多くの方がしているはずです。

打ち方を変えようとして意識的に打とうとするとミスが増えて、そのミスを防ごうとすれば元の打ち方に戻ってしまうのは、こうした仕組みによるものです。

●どうすれば打ち方を直せるのか

それでは、自分の打ち方を直すことはできないのでしょうか。
もちろん、できます。

でもそれには、上達の過程でやってきたことと同じことをする必要があります。
つまり、「身体で覚えるまで繰り返す」ということです。

普通は、理解したことをきちんと実行すればうまく打てるはずだと思ってしまうのですが、それが間違いの元で、頭で理解した動きを実行しようとすると「考えるスピード」より速くは動けません。
そして、そのスピードはテニスでは実用的でないくらい遅いので、ギクシャクした動きになります。

目指す動きがプレー中に実行できるようになるためには、球出し練習などで徹底的に同じことを繰り返して、考えなくても自然にそうなってしまうというくらいまで身体に覚え込ませる必要があります。

練習の繰り返しで獲得した無意識化した運動を簡単に手直ししようとしても無理!ということです。

●無意識化するまで繰り返さないと身に付かない

技術向上のために、いろいろな課題に積極的にトライする方は多いのですが、この「無意識化するまで繰り返さなければ身に付かない」ということを理解していないと、いろいろ試してはうまく行かずに放り出すということを繰り返すだけでしょう。

新たな課題に取り組もうとするときに、コツがわかっただけで「できるようになった」と勘違いしてしまうのは、登るべき山のふもとに立っただけで、その山を征服したと思い込むようなものです。

「わかった」と「できる」の違いを理解しないと、いろいろな山のふもとには行ったけれど、どの山も登っていないというのと同じことになり、いろいろな課題への取組を繰り返しても成果は得にくいでしょう。

●「打ち方」以外に原因がある

実際問題として、テニスの難しさの内容をきちんと理解すれば、飛んで来るボールに対して身体の動き出しが遅れたり、0.01秒以内というタイミング合わせに失敗したり、ボールの状態に合う適切なスイングが選択できなかったり等のことがミスショットの根本原因であることがわかります。

ですから、ミスを防ぐには身体の反応速度をアップさせたり、反射的な動きの精度を上げたり、ボールの状態に合わせた柔軟な対応ができるようになったりすることが先決なのですが、そこには手を付けずに打ち方だけを気にして、「ああしよう」「こうしよう」などと考えながらプレーしていたら、身体の反射が鈍る上に硬直的な対応しかできなくなります。

テニスはラケットを振ってボールを打つスポーツなので、「ボールを打つ技術=ラケットの振り方」だと考えてしまうことが多いようですが、止まっているボールを一定にスイングで打つスポーツではないので、飛び交うボールへの対応能力を上げることのほうが、ラケットの振り方をあれこれ工夫するよりずっと大切です。

「うまくなるには打ち方を改善することが必要だ」という固定観念からできるだけ早く抜け出すことが、上達への近道かもしれません。

次の「上達は自覚できない」
「ラケットの影響を自覚するのは困難」については作成中です。来週までお待ちください。

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