2015年12月18日金曜日

「相手の要望に沿ったものを提供する」は万能か

ブシャール コナーズ


「相手の立場に立って」

「相手の目線に合わせて」

などとよく言います。

詳しいことは分かりませんが、ビジネスや物作りの世界でも「お客様の視点に立って考える」とかよく言われます。

このような視点で日々工夫や努力をしている会社やビジネスパーソンをテレビや本などで目にします。

先日、農業機械を作っている会社が特集されている番組を観ました。

そこの会社は農家の方達の、「草刈り機のイスをあと20cm低くして欲しい」「洗車が簡単に出来る草刈機が欲しい」といったニッチな要望に応え続けることで業績を上げている会社として紹介されていました。

参考になる点もあり、良い刺激も受けモチベーションも上がったところでふと疑問が湧きました。

これはテニススクールにも当てはまるのだろうか。

全員がというわけではありませんが、テニススクールに通われている多くの方は、テニスが「上手になりたい」「強くなりたい」と思っています。

そしてコーチというのは、ほぼ100%の確率で「上手になって欲しい」「強くなって欲しい」と思っています。

一見すると、先程の農業機器メーカーと農家の方と同じ関係性のように見えます。

農家の方は、「今より作業が楽になり、かつ効率が上がる」機械を求めています。

メーカーとしてはその要望に応えるべく、企業努力を続けます。

そして求められているものを提供し、利益を得、農家の方も不満が解消されどちらも万々歳です。

ガスケ プラクティス コーチ


では、こんな場合はどうでしょう。

農家の方が要望を出す、その要望に応えるべくメーカーが機械の作成に取り掛かる。

いざその機械をお渡しする段階で、農家の方が、

「やっぱり今使ってるこの古い機械で効率良く作業出来る方法ないかな。その新しいの、ちょっと高いし色も変だし」

「じゃあなんで最初にそんなこと言ったんだよ」、というメーカーのツッコミが聞こえてきそうです。

(もちろんここでも期待に応えようとする企業努力は必要ですが、あくまで例え話です)

効率を良くしたいなら新しい機械、出費が痛いなら今の機械のまま。

このときメーカーが、

「今お使いになっている機械ではそれ以上は無理です。作業効率を今以上に向上させたいのであれば、こちらの新しい機械を購入するしかありません。ただ値段は下げれられません」

と出た場合、あとは農家の方が「どれだけ本気で作業効率を上げたいと思っているか」にかかっています。

そんなに複雑な話ではありませんよね。

この話をテニススクールに置き換えてみましょう。

「私、ダブルスが上手になりたいんです。どうすれば上手になれますか」

「そうですね、ダブルスは攻撃的なゲームですのでネットプレーが求められます。スマッシュなんかもしっかり出来たほうがいいですね」

「あ~私スマッシュ嫌いなんですよね。スマッシュの練習しないでダブルスで勝つ方法ないですか」

「ダブルスは上手になりたいけどスマッシュはしたくない」。こう言われたとき、表情こそ平静を装っているものの、私の頭の中はこんな感じです。

稲中 頭パーン


私がもう少し若かったら「意味分かんないんですけど」で一蹴なんですが笑、そういうわけにもいきません。

もしかしたらスマッシュが出来なくてもダブルスで勝てる方法があるのかもしれませんが、今のところ私はそういった方法を知りません。

ですので私が、

「ダブルスにおいてスマッシュは必須です。スマッシュの練習なしでダブルスで勝つというのは考えられません」

と出た場合、あとはこの方が「どれだけ本気で上達を願っているか」にかかっています。


本来、私達が「テニス」に寄っていかなければいけないはずなのに、自分はそのままに「テニス」を自分寄りに捻じ曲げようとしている方を多く見掛けます。

ですが、当然テニスが「テニスのほうから人それぞれに形を変えて合わせてくれる」はずはないので、こういった方達の望む形にはなりません。

そうするとこういった方達は、自分を変えずとも何か結果が変わる可能性がある、「道具や環境」といった事柄に意識が向き始めます。

それでも望むものが手に入らないと、最終的には他人のせいにし始めます。

対戦相手がおかしい、練習相手に恵まれてない、コーチの言う通りやっても全然上手くならないetc。

アメリカの精神科医の有名な言葉に、

「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる」

というのがありますが、私に言わせてもらえば、

「他人とテニスは変えられない。自分(のテニス)と思考(とものの見方)は変えられる」

です。


source : テニスとコーチング