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"錦織はグランドスラムタイトルを獲れない"という風潮に対して
勝つための武器は充分揃っているのに勝てない
ベルディヒの問題点を端的に表すとしたらこういうことでしょう。
「格下には滅法強い」、「トップ10リトマス試験紙」、「空気」など、現在では少々揶揄されている感が否めないベルディヒですが、数年前、頭角を現し始めた時には新たなスターとして非常に話題になりました。
2004年オリンピック2回戦で初対戦のフェデラーに勝利。
2010年のウィンブルドン準々決勝でもフェデラーに勝利し、準決勝ではジョコビッチも下しました。
ナダルに対しては初対戦(クレー)こそ敗れるものの、その後はハードコートで3連勝し、一時期勝ち越していた時期もありました。
マレーに対しても同様です。一時期は勝ち越していました。
評価すべきは3セットマッチだけでなく、番狂わせが起きにくいとされる5セットマッチでも勝利経験があることです。
そう、ベルディヒはビッグ4全員にグランドスラムで勝利したことのある数少ない選手の1人なのです。
マスターズ優勝経験あり、全てのグランドスラムで準決勝進出の経験あり、シングルス通算12回の優勝、デビスカップ優勝2回、という成績からも並大抵の選手でないことは明らかでしょう。
ところが、ここ数年はビッグ4を含めたトップ選手に対し連敗を重ねているのが現実です。
ジョコビッチには通算2勝24敗、マレーには6勝9敗、フェデラーには6勝16敗、ナダルには4勝19敗ということで、相手がビック4であることを考えれば、必ずしも悪い成績だとは言えませんが、問題は近年の成績です。
ナダルに対して一時期17連敗ということが話題になりましたが、ジョコビッチに対しても現在11連敗中、マレーに対しても5連敗中、フェデラーに対しても5連敗中と、ここ数年はほとんど勝てていません。
先ほども言いましたが、番狂わせが起きにくいグランドスラムで勝利していること、なおかつ複数回の勝利経験があることから、偶然勝てたという見方をすべきではないでしょう。
その実力は本物です。
ボールを高く上げるトスから放つサーブは充分な球速があり、フラット系のストロークは威力だけでなく精度も兼ね備えています。
ネットプレーも積極的に選択するわけではないですが、前に出るべき時はしっかり出て、ボレーもきっちり決めます。
特記すべき技術的な欠点もあまりなく、冒頭の「勝つための武器は充分揃っているのに勝てない」という結論に達します。
ダブルベーグル(ゲームカウント0-6,0-6)で敗れた先日のローマでのゴフィン戦がその象徴でしょう、
トップ選手同士の試合でもベーグル(1セットだけ0-6)というのは時々あります。
2012年のシンシナティ決勝、フェデラー対ジョコビッチ戦も第1セットはフェデラーが0-6で先取しました。
この試合、第1セットのジョコビッチはダブルフォルトを連発するなど、明らかに精彩を欠いていました。
それでも第2セットでは修正し、タイブレークで競り負けてフェデラーの勝利に終わるものの、ダブルベーグルとはなりませんでした。
トップ選手なら例え1セット目の内容が悪くてもその後のセットで修正できる、ということです。
これは「5セットのグランドスラムでは番狂わせが起きにくい」とされる理由の一つでもあります。
ダブルベーグルというのはトップ選手対ランキング100位程度の選手の試合ですら珍しいことです。
それを経験豊富かつ技術的にもトップ10選手として胸を張れるベルディヒが食らったのですから話題になるのは当然です。
もちろん、ベルディヒもこの状況に長年甘んじてきたわけではありません。
自分を根本的に変えてくれる人物に出会うべく、ベルディヒは2014年10月、とあるレジェンド選手とコンタクトを取ります。
それが2012年から約2年間に渡ってマレーのコーチを務めていたイワン・レンドルでした。
今後紹介しますが、グランドスラムの決勝に4度進出しながらも優勝経験がなかったマレーは、レベルの差はあるにしてもベルディヒと同じく「武器は揃っているのに勝てない」選手でした。
そんなマレーにグランドスラムタイトルをもたらしたレンドル。
彼にコーチを依頼する、というのはベストな選択肢だったでしょう。
ベルディヒとレンドルがともにチェコ出身であることも2人の強い結束を期待させました。
しかし、レンドルはこのオファーを断ります。
選手とともに1年中ツアーを回ることで私生活に影響が出ることを良しとしなかったのです。
一方、レンドルの退任後に元女子テニス世界ランキング1位のアメリー・モレスモにコーチを依頼したマレー。
女性コーチに男子テニス選手の指導が務まるのか疑問の声が上がり、事実、モレスモとの関係がスタートした2014年は不本意な成績が続きました。
それでも、マレーは前年に受けた腰の手術からの復帰が上手く行っていないと釈明し、モレスモの指導に問題は無いことを強調しました。
しかし、これが原因となってマレーのもとから2人のメンバーが去ることになります。
それがアシスタントコーチのダニ・バルベルドゥとフィジカルトレーナーのジェズ・グリーンです。
特にダニはマレーが10代の頃からの友人でもあり、技術的なことよりも戦術面やその立場を活かしたアドバイスをすることが多かったようです。
2人はレンドルとともにマレーをサポートしていた、まさにレンドルの考え方を継ぐ者たちでした。
したがって、レンドルの指導法からの転換を図ろうとするモレスモとはやや対立関係にあったのです。
結果が出ないにも関わらず、マレーがモレスモ擁護の立場だったこともあり、ついに2人はチームを去ることになったのです。
その後、ダニをコーチとして迎え入れたのがベルディヒでした。
レンドルから直接指導を受けることは叶わなかったものの、ダニの存在は間違いなくベルディヒにとってプラスでした。
ダニと共にスタートした2015年、全豪オープン準々決勝では当時17連敗中だったナダルをストレートで下します。(この試合、第2セットはベルディヒがベーグルで取っています)
続く準決勝でマレーに敗れるものの、その後は全仏オープンでツォンガに敗れるまでトップ11以下の選手には一度も負けませんでした。
この驚異的な安定感で全仏直前のレースランキングは3位、エントリーランキングでも4位という絶好の状態でした。
しかし、この後が続かなかった。
芝のハレではカルロビッチに3セットで45本ものサービスエースを決められ敗戦。
ウィンブルドンではシモンに、全米ではガスケに敗れ、深センオープン(ATP250)での優勝があったものの、ツアーファイナルズでは3戦全敗でした。
ダニの指導の下でも「トップ10選手に勝てない」状況が改善されなかったベルディヒは、ついに今年、ゴフィンにダブルベーグルを食らった直後、ダニを解任することを決定しました。
ちなみに、2年前にベルディヒのオファーを断ったレンドルは、その後アメリカの若手強化プログラムにコーチとして参加。
さらに、今年のウィンブルドンからは再びマレーとタッグを組んでいます。
レンドルに悪気はないでしょうが、ベルディヒとしては何ともやるせない気持ちでしょう。
30歳という年齢を考えても、残されたチャンスはあまり多くありません。
ベルディヒがここから盛り返すのか、それとも後退してしまうのか、あるいは現状を維持し続けるのか、いずれにしても、注目すべきであることに変わりはないと自分は思います。
ベルディヒの苦悩は錦織にとっても決して他人事ではないのですから
source : テニスブログ Hawk-Eye