錦織が得意とするリターンショット。そのリターンが試合全体を左右するとはどういうことなのか、具体的なデータも交えて解説していきたいと思います。
まず初めに、テニスはサービスキープが基本です。
極端な話、リターンゲームで全くポイントがとれなくても、自分がサーブを打った時に失点しなければ負けることはありません。
これはつまり、サーバーが絶対的に優位であることを意味します。
ではなぜサーバーが優位なのか。それはもちろん、サービスで相手を崩して展開していけるからです。
特にトップ選手のファーストサーブからのポイント獲得率平均は70%程度で、50%を下回る試合というのはほとんどありません。
そして、ファーストサーブの確率自体も平均で60%程度です。
単純に考えて、70%もの高い確率でポイントに結びつくファーストサーブが60%の確率で入るのですから、サービスキープに成功するのは当然とも言えます。
だからといって、リターナーがそう簡単にキープを許すわけにはいきません。試合を早く終わらせるためにも、サービスブレークは狙っていかなければなりません。
サーバーの優位はファーストサーブに基づいたものですから、まずはセカンドサーブでポイントをとっていくべきだという結論に達します。
当然のことながら、ファーストサーブに対して球速の落ちるセカンドサーブではポイントに結びつく確率が低くなります。
具体的には、トップ選手でも50%台、最も高い選手ですら60%という確率です。
このセカンドサーブを突破口にしてブレークを狙っていくのですが、ここでリターン戦術が重要になってきます。
いかにセカンドサーブがチャンスとはいえ、ファーストサーブが入った時に不利なのは変わりません。
そこで、相手のファーストサーブの確率とポイント獲得率を下げる方法を考えます。
仮に自分がサーバーだとして、セカンドサーブになると相手が良いリターンを打ってきて思うようにポイントがとれないとき、どのような気持ちになるでしょうか。
「もっと強いセカンドサーブを入れなければ……」や「そもそもファーストサーブを入れなければ……」という気持ちになるはずです。
こういったプレッシャーは当然サービスコントロールの乱れに結びつき、ダブルフォルトやファーストサーブの確率低下を引き起こします。ファーストサーブの確率が下がればコースを甘くしてでもその確率を上げようとしてしまい、ファーストサーブでのポイント獲得率も下がります。
セカンドサーブに対するリターンが良いだけなのに、ファーストサーブにもプレッシャーがかかり、サーバーの優位性が崩れてしまうのです。
実際の試合でここまで都合のいい展開はそう簡単には見られませんが、その一例を紹介したいと思います。
今年のシンシナティ決勝ジョコビッチ対フェデラー戦のスタッツです。
The numbers from #Federer's @CincyTennis victory over #Djokovic. http://t.co/kRsZ9udpkC #ATP #tennis pic.twitter.com/VLeApMNNzz
— TennisTV (@TennisTV) 2015, 8月 23
ジョコビッチのダブルフォルトが4本ありますが、この内の3本は第2セット第4ゲームで犯したものです。
ジョコビッチらしからぬミスですが、この原因にはフェデラーのリターン戦術が絡んでいます。
SABR(sneak attack by Rogerの略)を耳にしたことのある方も多いでしょう。ウィンブルドン終了後にフェデラーが編み出した超攻撃的リターンのことです。
You just can't not love the SABR.. Can't stop watching this!! 😍😍 #USOpen #Federer pic.twitter.com/3l8GbS6Fbj
— Tia (@hatiashee) 2015, 9月 14
※動画は全米オープン決勝戦のもの
サービスライン付近まで踏み込んでリターンすることにより、ボールが相手コートに入った時には既にネットに詰めています。本来ならジョコビッチの正確なパッシングショットが飛んでくるのですが、構える時間すら奪うことでそれを許しません。
One of the talking points this week @CincyTennis - #Federer return hit points. http://t.co/kRsZ9udpkC #ATP pic.twitter.com/4CdR5NG4FV
— TennisTV (@TennisTV) 2015, 8月 23
再びシンシナティのデータに戻ります。フェデラーが相手のセカンドサーブをどの位置からリターンしたかの統計です。極端に前(ベースラインから4m付近)でリターンしているポイントがあり、これがSABRなのです。
いわばフェデラーの必殺技のような存在になったSABRですが、フェデラーの真の狙いはSABRでポイントを奪うことではありません。
試合を見ていれば気付くことですが、SABRはポイントに結びつかないことも多々あります。セカンドサーブとはいえ時速140km程度のボールをライジングで処理するのですから当然です。
ではなぜフェデラーはSABRを仕掛けるのか。
先程の話に戻りますが、セカンドサーブのリターンで相手にプレッシャーをかけることでサーバーの優位性を崩そうとしているのです。
シンシナティ決勝では第1セットから要所要所でSABRを使い、特にタイブレークの1本はそのままミニブレークに結びつきました。
第2セットでジョコビッチは相当プレッシャーを感じていたはずです。新技のSABRのみならず、フォアハンドへの回り込み、バックハンドのハードヒット、スライスを打って前に出るチップ&チャージなど、フェデラーはリターンで様々な仕掛けを試みてきます。
こうしたリターン戦術がジョコビッチのダブルフォルトを引き出したと考えられます。
一口にリターン戦術と言っても選手によって様々です。ジョコビッチやマレー、錦織のようにどのサーフェイスでも踏み込んで高い打点で打つ選手もいれば、ナダルのようにクレーでは大きく下がってラリー戦に持ち込もうとする選手、ワウリンカのように相手コート深くに返すことを主とする選手もいます。
こういったリターン戦術が試合をどう左右していくのかに注目すると、より一層試合を楽しめることでしょう。
source : テニスブログ Hawk-Eye