2015年12月7日月曜日

深みのある「楽しさ」「面白さ」を得るには

マレー バックハンド スライス


「戦略」「戦術」

この言葉を聞いてどんなことをイメージしますか。

こちらはどうですか。

「セオリー」「定石」

これらを知ることはいずれもテニスが上達する上で欠かせないものです。

今まで多くの方にこれらの重要性を説いてきましたが、興味を示す人と、「そんな綺麗事言ったってねぇ。そんな言った通りに出来たら苦労しないわよ」顏をする人と二つに大きく分かれます。

それでもこれらの必要性を私が説いていると、今度は、

「昔全日本に出てた◯◯さんに聞いたら知らないって言ってた。そんなの気にしなくていいって。結局は勝ちゃいいんだから、て言われた」

というような、人間によくある「自分が望むほうになるような情報を引っ張り出してくる作戦」を時々使われることがあります。

なんとしてでも取り入れたくないことは十分に伝わってきます 笑


さてこの戦略・戦術という言葉ですが、そもそも戦争から来ているそうです。

(大きな意味で)自国を発展させていくための考えや方策が戦略で、いざ他国と戦争状態になったときに有利に戦うための手段や方法が戦術です。

戦略がマクロで戦術がミクロといった感じでしょうか。

そしてどちらが先に来るかといえば、これは間違いなく戦略です。

自国を発展させるためには戦争が良策、とならなければ戦術は登場しないからです。

ちょっと想像してみてください。

一国のトップがノープランで国家を動かしている、もしくは戦地で将軍が行き当たりばったりの指令しか出さない、ちょっと想像しただけで怖すぎますね。

政治的な交渉をしたり、他国と相互依存の関係にあるほうが自国が発展すると思えば戦争などしませんし、自国の軍事力を持ってすれば世界征服間違いなし、平和な世界を作るためには一旦戦争という手段も止むなし、と思えば戦争を起こすでしょう。

いざ戦争開始となった場合でも、自国の陸・海・空軍のどれが最も充実していて、どれが最も手薄か、武器や弾薬はどれぐらいあるか、食糧はどれぐらいあり、どれぐらいの期間戦争状態が続いても兵士や国民が食べていけるか、敵国のどこを中心に攻めていくのが良いのかなど、賢くない私でもちょっと考えただけで知っておかなければならないこと、考えておかなければならないことがいくつも思い付きます。

ジェイミー・マレー アンディ・マレー ダブルス


戦争ではいまいちピンと来ない方もいるかもしれませんので、もう少し身近なゲームで考えてみます。

あなたがオセロを知らないとします。

友人にやろうと誘われ、ルールやコツもほとんど分からないまま石を適当に置いていたら、なぜか勝ってしまった。

いわゆるビギナーズラックというやつですね。

これって嬉しいですか。

「面白い」と感じますか。

あなたがストⅡ(ストリートファイターⅡ)を知らないとします。

友人にやろうと誘われ、ルールやコツもほとんど分からないまま、ケンを選び十字キーとボタンをガチャガチャやっていたら昇龍拳やら竜巻旋風脚が飛び出し、なんと勝ってしまった。

これって嬉しいですか。

「面白い」と感じますか。

私は自分の意思で昇竜拳を出したいし、意図したタイミングで竜巻旋風脚を出したい。

負けないようにするにはどうしたらいいか、勝つにはどうしたらいいか、そして何度も何度も勝つにはどうしたらいいのか。

こういったことを考えてる過程も「面白い」ですし、意図した通りに事が進んで勝利したときなどは、しずかちゃんの入浴シーンを見ているときののび太ぐらいニタニタしてしまいます。


「何が何だかよく分からないが勝てちゃった」

というのは、喜びや楽しみが「浅い」ということです。

テニスで試合をしていて、「勝利する」というのは何回味わっても良いものです。

ただそれが、「やってみないと分からない」よりは、「やれば勝てる(確率が高い)」のほうがいいいですし、

「時々なら勝てる」ではなく、「毎回勝てる」のほうがいい。

テニスには自分でコントロール出来るものがたくさんあり、また知っていれば自分に有利に働くということも沢山あります。

勝利を運に頼るのでなく、(ある程度)自分でコントロールする。

こうすれば過程も結果もどちらも楽しめます。

ヒンギス ミルザ ダブルス 


「こんな小難しいこと知らなくても、私は十分試合を楽しめてる」

という方もいるでしょう。

なぜ楽しめるのか。

それは自分も相手も「ノープラン」だからです。

ノープラン同士なのですから、やっつけるときもあればやられるときもあるでしょう。

そして勝敗は出たとこ勝負です。

ですから勝つときもあれば負けるときもあるので、それなりに楽しいのです。

そして「今日はやられたけど、 次は負けないぞ」なんて会話も見られます。

一方が「戦略家」だった場合はどうなるでしょう。

まず間違いなく結果はワンサイドになります。

そして戦略家は思い通り事が運ぶのでプレー中も楽しく、また結果も伴うので心の中ではのび太くんが登場しています。

一方ノープランのほうはストレスがたまる一方です。

こういったことを知り尽くした熟練者同士が試合をするとどうなるでしょう。

お互いレベルが拮抗していますので、一見するとノープラン同士の試合のように「やったりやられたり」「勝ったり負けたり」します。

そして最後には、「今日はやられたけど、次は負けないぞ」なんて会話もあるでしょう。

ですが、「ゲームが楽しい度合い」はノープラン同士の比ではありません。

プレー中も自分がなぜポイントを取ったか、なぜ取られたかが大体分かるので、ポイントを取っても取られてもお互い心の中にはのび太くんがいます。

ということはある意味、「知っている」と負けても「楽しい」とも言える。

ということは先ほどの、「勝ちゃいい」と言った強い人は「強いが浅い」ということになります。


こういったことが分かると、勝利の嬉しさやテニスの楽しさが深くなります。

どれぐらい深くなるかというと、キャピキャピの女子大生の言う、「人生そんな甘いもんじゃない」と、戦火をくぐり抜けてきた胸に銃弾の跡が残るような年配の方が言う、「人生そんな甘いもんじゃない」ぐらい違います。

ただこれらは目に見えないものですし、買えるものでもありません。

地道に追い求めていった人のみが感じ取ることの出来るテニスの味わい深さです。

イチローがこの動画で言っていることもそういうことなのではないかと思います。



「野球が上手くなりたいんですよね、まだ。そういう実感が持てたら嬉しいですね。それは数字に表れづらいところですけど、これはもう僕だけの楽しみと言うか、僕が得る感覚ですから。ただそうやって前に進む気持ちがあるんであれば、楽しみはいくらでもありますから、ベストに少しでも近づきたいですね」

イチローが言う、「僕だけの楽しみ」「僕が得る感覚」というのはどれだけ深いものなのか想像もつきません。

イチローほどではないにしろ、テニスも知れば知るほど、やればやるほどまた新たな楽しみや感覚というのを得ることが出来ますので、焦らず建設的に練習し、プレーを楽しんでください。


source : テニスとコーチング